新ドライもん・のび太の国士無双伝説
第1話 覚醒
作:T@S
それはいつもと変わらない日のことだった。
しかし、一人の男の様子がおかしかった。
ここはのび太たちが通う学校だ。
正確に言えば○×小学校である。
その5年3組にはいつものメンバーが揃っている。
だが一人だけ様子がおかしいのである。
普段は校庭を駆け回ったり、掃除をさぼって真っ先に家に帰るような人間が読書に励んでいる。
「なあ…。」
口が尖った少年から声が出た。
「最近ジャイアンおかしくないか?」
眼鏡をかけた少年がうんうん、うなずく。
お下げの少女も共感する。
「どうせけんか読本じゃないの?ジャイアンのことだからさ。」
「いや、そんな風には見えないぞ。」
さらに怪しむスネ夫。
読書中のジャイアンはブツブツと小声で何かの言葉を囁いている。
それは日本語なのかどうかさえ疑わしい。
「取りあえず今は…そっとしてあげたら?下手に怒らせたくないし…。」
静香はあまり関わりたくないと思っていた。
何を考えているのかわからないジャイアンほど恐ろしいものは無いと考えているからだ。
そして授業が終わった。
チャイムの鐘の音と同時に下校する少年たち。
だがジャイアンは一人で帰ろうとしていた。
「おーい!ジャイアーン!」
一緒に帰ろうと誘うのび太とスネ夫と静香の3人。
だがジャイアンは全く聞く耳を持たない。
よく見るとその目にはクマができており、どうやら昨夜は一睡もしていなかったことがわかる。
魂を抜かれたようにフラフラとジャイアンは歩く。
心配しているスネ夫は軽くジャイアンの肩を叩いた。
「ジャイアン、どうしたんだよ。いつもみたいにやってよ。アレを。」
アレとは何を指しているのかわからないが、スネ夫が彼を怪しいと思っているのは確かだ。
「スネ夫…。」
ジャイアンがようやく口を開いた。
「ん?」
「ついに見えた…。」
「え?」
スネ夫は思わず聞き返した。
「見えたんだ…。俺にも…。」
目がうつろなジャイアンは小さな声で語りかけた。
「俺は選ばれし者だ…。」
そう言ってジャイアンは去っていった。
「何、今の?」
「知らん。」
「ドラえも〜ん!!」
自宅に着いたのび太は慌てて家に入ると階段を登り、自分の部屋のふすまを開けた。
「どうしたんだい、のび太くん。」
部屋には青い体の人形がいた。
我らの英雄ドラえもんである。
ドラえもんはドラ焼きをパクパク食べながらゴロゴロコミックを読んでいる。
「今忙しいんだ。用件があるなら後にしてくれ。」
忙しくない。
「ジャイアンが…ジャイアンが…!」
「ジャイアンがムクを食べようとしてるのか。それは大変だね。」
ドラえもんは冷静であった。
その理由はよくわからない。
「違うよ!ジャイアンがおかしくなったんだよぉ!」
「自分の体をムクに献上しようとしてるんだね。」
「違うってば!多分ムクは関係ないよ!ジャイアンがゾンビみたいに生きてるのか死んでるのかわからないほど元気が無いんだよ。」
「よくあることじゃないか。あんな悪臭と怪音波を放つゴミのような巨大な生物がそうなるのはよくあることだよ。恋の病じゃないの。」
ドラえもんがいつになくドライな反応をする。
「そうそう、そうなると心の友よお願いがある、なんて言ってくるんだよね。」
ドラえもんとのび太がジャイアンの悪口を言い合っていると、玉子が部屋に入ってきた。
「のびちゃん、買い物に行ってくれない?」
玉子が自分で買い物に行くのを面倒だと思いながらお決まりの言葉を発した。
当然ながらのび太は嫌がる。
第一、僕に買い物に行かせたらどんなことになるのかまだわからないのかよこのオニババ、と言おうと思ったがやめた。
「嫌だよ、ドラえもんに行かせてよ。」
「なんてことを言うんだ。君は!」
ドラえもんはのび太の無責任な発言に怒りをぶつけた。
だが、玉子の目はドラえもんに向けられた。
「じゃあドラちゃん行って。」
「聞いてないよー!!僕に買い物に行かせたらどんなことになるのかまだわからないのかよこのオニバ…」
「なんですってぇぇぇぇ!!!?」
玉子の体からものすごいエネルギーが放出される。
「居候の分際でよくもそんな口を…!」
「の、のび太くんタケコプターで逃げるんだ!」
「え?」
何が起きたのかわからないのび太にドラえもんはぶちきれた。
「はやく出ろ!出ねえとてめえの命がねえぞ!」
ドラえもんの顔が変化した。
そう。
"あの"ドライもんが帰って来た。
「この場は俺にまかせろ!てめえは逃げるんだ!いいな!」
「ハイ!」
のび太はタケコプターを付けて窓から脱出した。
玉子の怒りはますます増幅する。
「言ったわねえ言ったわねえ言ったわねえ…!」
そしてドライもんは冷静な態度を見せた。
「俺の名はドライもん。全てを破壊する殺戮の機械だ。」
「少しはまともなことを言ったらどうなのよ!?」
玉子の目は完全に充血して真っ赤になっている。
何故ここまで怒るかドライもんには理解できなかった。
今出来ることはただ一つ、目の前の敵を粉砕することである。
「許さないわよおぉぉぉぉぉ!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ
怒りが治まらぬ玉子の頭から牛の角が生えた。
「!?」
玉子はまるでバッファローマンのようだ。
そして突然の変身にドライもんは驚いてしまった。
あのドライもんが動揺しているのだ。
「ただの人間の女だ…。どうということはない。」
若干焦りながら冷静を装うが、玉子の気迫を感じると冷や汗が出てくる。
玉子の怒りの赤いオーラは部屋の色まで変えてしまった。
今、この家は地獄と化していてる。
襲いかかってきそうな玉子にドライもんはすかさず空気砲を取り出し、構えた。
「この俺様の空気砲で粉々にしてやる!」
ドッカァァァァァァン
ベシッ
ズシャアアアアアアアアアア
玉子は素手で空気砲を跳ね返した。
跳ね返された真空はそのままドラえもんに向かう。
「くわっ!!」
チュボーーーーーン
ドライもんに直撃した。
流石のドライもんも自分の空気砲をもろに受けてかなりのダメージを受けた。
「何故だ!?この女はこんなに強かったとでも言うのか!?それとも俺が弱くなったのか!?」
未だかつてない恐怖にドライもんは怯えている…。
ドライもんが恐怖を感じるのはおそらくこれが初めてであろう。
今まで人間を超えた人間と戦ってきたドライもんが、苦戦しているのだ。
「次はあたしの番ね、ドラちゃん…。」
勝ち気な玉子はついに動き出した。
玉子は手を奇怪に動かすと
「片岡流必殺拳奥義!!玉子スーパーグレートマザースペシャル!!」
牛の鬼と化した玉子からとてつもない必殺技が放たれた。
光を超えたその速さにはドライもんの目には映らなかった。
玉子は一瞬のうちにドライもんに攻撃を仕掛けた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!」
玉子の百裂の鉄拳がドライもんの頭に炸裂した。
「ぐわああああああああああ!!!!!!」
ドライもんの頭が凹んでしまった。
あの超合金が変形するなんてありえない話だ。
さらに、よく見ると手と足が吹っ飛んでいる。
それでも玉子は容赦なくドライもんを殴りまくる。
「よくも家主である私に…」
ズゴッ
「げぶっ!」
「口答えしたわねえぇぇぇぇ!!!!」
玉子は自らが放つ赤いオーラを一点に集めた。
すると赤い球が出来上がった。
怒りに燃える玉子はその赤い球を殴った。
「きゅわあああああああ!!!!!!」
ボフッ
アイィィィィーーーーーーン!!!!!!!
赤い球が爆発して赤い光線がドライもんを襲う。
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
ドライもんは赤い光線に包まれると燃え上がり、身動きが取れなくなった。
「熱い!!!熱いっ!!!あちいよおおおおおおお!!!!!!」
ドライもんの体は溶けなかったが、徐々に黒焦げになっていく。
野比家には地獄の炎が漂っている。
燃え盛る地獄の炎にドライもんは倒れた。
それでも炎はまだドライもんをまるごと燃やしている。
真っ黒になるまで。
メラメラプスプスと音を鳴らして…。
玉子は我に返った。
赤いオーラは消え去り、いつもの空気が流れはじめた。
「まあ、こんな汚いもの連れ込んで!捨てちゃいます!」
玉子は真っ黒なダルマと思しき物体を持ち上げた。
そしてそのまま2階の窓から放り投げてしまった。
通りかかった車がその黒い物体に驚いて電柱にぶつかったような音がしたが、玉子は気にならなかった。
「とりあえずのび太が帰って来たら叱っておかなくちゃ!」
ドライもん、死す。
続く