新ドライもん・のび太の国士無双伝説
第8話 崩壊への序曲
作:T@S
「…で、例の会議は開かれるのか?」
遠くから見ても小学生とわかる少年がそのような発言をした。
彼こそ、出木杉英才である。
「剛田武くんの暴走を止められなかったのは僕にとって一生の不覚だった…。」
場所は首相官邸。
出木杉は窓から見える景色を憂鬱そうに眺めている。
「これは影の首相である僕の責任だ。普通の小学生を演じてたばかりに本業がおろそかになってしまったからな…。」
出木杉はなんと日本の影の首相という職業であった。
その地位に就いている理由は持ち前の天才的頭脳はもちろんのこと、突如練馬に現れたドラえもんの実態を調査するためでもある。
政府は密かにドラえもんの存在を恐れていたのだ。
そこで政府は練馬に住む超天才少年・出木杉に目をつけた。
政府は出木杉を影の首相という本来の首相よりも上に立つ役職に座らせたのだ。
当然ながら、出木杉は表舞台には立たない。
極秘の存在として本来の首相を操っている。
つまり、日本は全て出木杉の手によって委ねられていたのだ。
しかし、本当の目的はドラえもんの実態を調査し、技術を吸収、さらにはドラえもんを拉致するという計画があった。
だが今となってはそれどころではなくなってしまった。
ジャイアンという脅威、そしてドラえもんの失踪。
「巨泉君、会議には僕が出席する。」
出木杉が巨泉(きょいずみ。きょせんではない!)と呼んだ男は日本の首相、巨泉ジュンイチローである。
獅子のような白髪を生やした彼ですら、出木杉には頭があがらない。
「ははっ、おっしゃるとおりでございます。しかし、あなただけであの場所に入るのは危険かと…」
「安心したまえ、君。僕は練馬の住民だ。それに一部の住民が僕を上手く囲んでくれるはずだ。」
出木杉は自信満々に語ってはいたが、不安な面持ちも見せた。
「しかし…国民にはいつまでこのジャイアン教の存在が隠せるかどうか不安だ…。我々だってジャイアン教なんて存在しないものだと思いたいが。」
そう語ると、出木杉は椅子に腰掛けた。
「クリキントン君と補佐官のカマヤツ・ブッシュ君によろしく頼むよ。後、オソロシアフスキー君と北のキ・ム君にも。」
練馬の外、いわゆる日本はまるで何事もなかったかのような状態が続いていた。
しかし、練馬に繋がる道路や鉄道が全て終日に渡って通行止めとなっている。
通行止めとなっている箇所の奥にはジャイアン教の信者と思われる人間が待ち構えており、近づいた者の姿を見た者はその後日本において誰もいないという。
メディアはこれを完全なまでに隠蔽し、単なる都市伝説と位置づけているだけにしか過ぎない。
練馬で政府による極秘プロジェクトが行われているとか、古代文明の遺跡が発見されたとか、徳川埋蔵金の発掘作業中とか、放射能の投棄とか、ブラックホールが発生したとか、そんな感じである。
人々はそんなことも気にせず、何かに追われるように毎日生きている。
幸いにもそのような状況であることはジャイアンの耳には入ってはいない。
そのジャイアンは今は何をしているかというと、別に横暴な態度を見せるわけでもなく、剛田雑貨店でゴロゴロしているだけであった。
歌いきったことによる疲労はまだ残っているようで、まるで冬眠中のクマのようである。
その一方で、ジャイ子を中心とする幹部たちは次々と作戦を展開している。
国民の主食をジャイアンシチューに決定し、存在する書物は全て冥書とジャイ子の漫画だけにさせ、テレビは全てジャイアンのPVとジャイ子の漫画のアニメとジャイアンズVSジャイ○ンツの試合(CG合成)だけを放送するようにさせた。
そして練馬における「アンチジャイアン」を探す作戦も展開されている。
だが、洗脳されなかったのび太、静香、出木杉、骨川一族、黒いダルマ、玉子、安雄、はる夫、ミイちゃんはジャイ子たちが外をいくら探しても見つからなかったのである。
それぞれの家族に問い合わせても出かけに行ったまま行方不明ということらしい。
そして、骨川家は既にもぬけのカラとなっており、部屋の隅々を探してもスネ夫たちは見つからなかった。
また、のび助は玉子のことや自分の家がどこにあるかを忘れてしまっているようで、思い出させようとすると恐怖に怯えて何も話せない、とのび助と対談した者は語っている。
なお、のび助は現在は会社に住み込んでいる、とのことである。
信者の間では野比家には近づいてはならない、という噂もあるようだ。
「あいつらはどこにいったのよ、ン〜モ〜!」
「ジャイ子様、そろそろ我が国の外における作戦も考えられたほうがよろしいのでは…」
幹部の一人である先生がそう言った。
「それはまだ!今はお兄ちゃんが疲れてるから、面倒なことはしたくないっつーの!」
相変わらずジャイ子はジャイ子である。
「そういえば、のび太さんの家はまだ行ってなかったわねえ…。」
「そ、そこだけはやめたほうがよろしいかと…」
「何言ってんのよ!誰が何を言おうとあたしは行くからね!あそこにはドラえもんのタイムマシンがあるってお兄ちゃんから聞いたわよ!あれさえあれば…」
ピルルルルルルルピルルルルルルル
ジャイ子のポケットからパーマンバッジに似た形と音の無線連絡機が鳴った。
「あら、お兄ちゃんから連絡が来たわ。…会議の予定が決まったから今すぐ剛田雑貨店に集合しろですってぇ!?」
ジャイ子の強行作戦は急遽取り消しとなってしまった。
「…助かった。」
「何か言った?」
「別に…。」
「お前ら、会議の予定が決まったぞ!」
ジャイアンがようやく本来の姿に息を吹き返した。
その姿はまさしく世界征服をたくらむガキ大将そのものである。
「会議は明日の正午、学校の会議室で行われる!代表者として出席するのはもちろん俺様だ!ジャイ子は店番を頼む!」
なんとも、国際会議とは思えぬみみっちい話である。
「各国の代表は専用機で学校の校庭にやってくるそうだが、怪しい動きをしたら撃ち落しても構わない!それくらいの覚悟でやるぞ!」
これで本当に会議が成立するのだろうか。
「…だが一つ気になる点がある。どうも日本の代表者が巨泉ジュンイチローじゃないんだよな。なんか”ほうめいきぼう”っていう人間らしいが。」
「ジャイアン様、それは”とくめいきぼう”と読むのでございます。」
「あっ、そうなの。でも変わった名前だよな。」
「………………。」
今度は敢えて誰も突っ込まないようである。
所詮、ジャイアンも小学生であった。
「とにかく…っ!俺様は全力でやつらを説き倒す!やつらを仲間にしてやるくらい、本気を出す!言うことを聞かないやつはぶん殴る!それだけだ…っ!」
ジャイアンによるジャイアニズムの会議の幕が切って落とされようとしていた。
続く